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血中亜鉛

 耳鼻咽喉科では、「亜鉛というと味覚障害」としか思いつきませんが、亜鉛は、人体の中で、とても重要な働きをしています。亜鉛を必須成分とする酵素は、200種類以上もあり、細胞の生成や体の成長に欠かせないミネラルです。従って、亜鉛が欠乏したときの症状も味覚障害だけでなく多彩で、高齢者に多い食欲不振、床ずれ、口の中の諸症状、元気がない、慢性の下痢、口角炎、味覚障害、貧血、舌痛症、掻痒を伴う角化性皮疹、水疱性皮疹、精神状態の変化、反復する感染症などの免疫低下、夜盲症、インスリン伝達の低下のほか、アルツハイマー病にも関わり、他多くの症状の原因である可能性もあります。

 基準血中濃度は80㎍/dlとなっていますが、高齢になるほど低下していきます。また、腸での吸収において、銅と拮抗するため、銅が多いと亜鉛が少ないという関係になっています。亜鉛値も銅値も共に100㎍/dlでその比が1対1であることが理想です。(この比が1.4以上であると、認知症と関係してくるといわれています)

 亜鉛がよくとれる食物は、牡蠣・牛肉・ホヤ・豚レバー・カニ・卵黄等々です。たね類にも亜鉛は、多く含まれますが、種の中では亜鉛はフィチンという物質に結合して、吸収されにくい状態になっています。玄米を発芽させ、発芽玄米にしたり、大豆を発行させ納豆や味噌にすると、吸収されやすくなります。亜鉛のサプリメントや亜鉛の入った胃薬を取るのも一つの方法です。亜鉛不足は、2型糖尿病やアルコールの飲みすぎ、フィチンを多く含むパンやインスタント食品の摂取、タンニン(お茶に含まれているポリフェノール)、便秘用薬、ホルモン剤(コルチゾール・エストロゲンなど)、脂質降下剤、胃酸抑制薬、ストレスによっても低下する場合があります。

味覚障害について

亜鉛は舌の味蕾の形成にかかわっており、亜鉛欠乏によって味覚低下が起こります。亜鉛投与によって、回復しますが、味蕾細胞が再生するのに数か月を必要とします。日本大学名誉教授・冨田先生によると、味覚障害のうち亜鉛欠乏が原因のものは、20%程度、心因性が15%、薬剤の副作用が10%だとの報告があります。

免疫低下について

 亜鉛は、サイムリンという、Tリンパ球を分化・活性化するホルモンの補酵素となっています。また、好中球やマクロファージの貪食機能の低下ももたらし、免疫機能の低下をもたらします。

そのほか

 ストレスがかかると血中亜鉛値が低下することは知られています。血清亜鉛値が低いと拡張血圧が高いと言われます。亜鉛低下により血管硬化をおこし易いためと考えられます。妊娠によって亜鉛値が急激に低下します。亜鉛低下はアルコール脱水素酵素の機能低下をおこしますから、二日酔いしやすくなります。亜鉛は細胞分裂、細胞増殖に必要なため亜鉛が欠乏すると成長障害をおこします。亜鉛不足により細胞外ATP分解酵素の働きが悪くなり、このことが「神経障害性疼痛」という慢性痛の原因になると考えられています。亜鉛は膵臓にとって大切なもので、亜鉛が低下すると膵臓の働きが悪くなり、糖尿病を引き起こしやすくなると言われています。亜鉛は、毛母細胞の活動促進、ケラチン合成、コラーゲン生成に働くため、薄毛予防、また、テストステロン(男性ホルモン)合成、精子量の増加にも働きます。テストステロンは女性にも必要で、抗酸化作用・動脈硬化予防・メタボ予防にもなります。脳は亜鉛が多く含まれる臓器で、特に記憶に関係する海馬や大脳皮質には多く含まれています。亜鉛低下はアルツハイマー病の原因の一つと考えられています。亜鉛値を保つことは、アレルギーの予防になります。亜鉛が不足すると、神経機能が低下するため「イライラ・疲労・無感動」などや暴力性を引き起こしやすくなると言われています。亜鉛は、皮膚の新陳代謝に作用し、創傷の修復促進作用、褥瘡の治癒に効果があります。亜鉛欠乏は、記憶・学習障害の他に、嗅覚の感覚系機能障害を起こします。実験によって、嗅上皮において神経細胞の破壊が観察されています。美肌効果もあり、シミやソバカス、ニキビの改善も見られます。舌の痛みも改善します。唇の荒れ、口内炎も改善します。悪性腫瘍の患者さんは、亜鉛値の低下が多く見られるとの報告もあります。CRPの上昇と亜鉛値の低下は関連しているようです。