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睡眠

 睡眠は、身体の休息だけでなく、ホルモンの分泌・免疫力の強化・ストレスの解消・記憶を脳に刻み込むなど大事な役割があります。特に入眠後約3時間の深い睡眠時に、成長ホルモンが分泌されます。成長ホルモンは子供だけでなく、大人にとっても重要で、成長ホルモンが少ないと肥満を起こしやすくなります。また、アルツハイマー型認知症では脳内にβアミロイドがたまりますが、睡眠中にアミロイドの除去がおこなわれます。睡眠にはノンレム睡眠という深い眠りとレム睡眠という夢を見る時間とが交互にやってきます。これらが何セットか続くことでいろいろなメインテナンスが行われます。

メラトニンというホルモンが、睡眠を調節しています。メラトニンは、トリプトファンというタンパク質から作られ、日光にあたることによって、セロトニンとなり、夕方からメラトニンとなります。トリプトファンは、必須アミノ酸で大豆・乳製品・卵・バナナなどに多く含まれています。その他、体の深部体温が、眠りに関係すると言われています。昼間高かった深部体温は、夕方から徐々に低くなり、睡眠中は低体温が続きます。逆に言うと体温の低下により良質の睡眠が確保されます。もう一つ睡眠に影響を与える原因は自律神経の状態です。自律神経は、内蔵・血管をコントロールしている神経で、アクセル役の交感神経とブレーキ役の副交感神経があります。日中は交感神経が優位で、夕方から副交感神経が優位になり眠気を誘ってくれます。

ただ、加齢とともに必要な睡眠量は減少し、体内時計の位相が前進し、早寝早起きとなり、中途覚醒も多くなりますが、これらは病的なものとは言えません。また、必要な睡眠時間は個人差が大きいとも言われています。ちゃんと睡眠がとれているかどうかは、朝すっきり目覚めて昼間の眠気がないかどうかが目安です。

最近、睡眠に障害を抱え、薬を使う人が増えてきています。睡眠薬にはいくつかの種類があります。ベンゾジアゾピン系睡眠剤と非ベンゾジアゾ系睡眠薬は、程度の差はありますが、脳の抑制をするホルモンであるGABAの働きを強くします。副作用として、薬物依存性のほか、小脳の失調や筋弛緩作用等によるふらつきや健忘症などの症状が出ることがあります。また、これらの睡眠薬による睡眠時の脳波は生理的睡眠時の脳波とは違い、深い眠りやレム睡眠なども減少しています。これに対して、最近自然の睡眠に近い眠りをもたらす薬剤が出てきました。ロゼレムは、メラトニン受容体を刺激してメラトニンの生成を促します。ベルソムラは、覚醒を維持するオレキシンと言うホルモンの働きを弱めることにより眠気を起こします。オゼレムもベルソムラも依存性の問題も少なく、睡眠時脳波も自然な形ですが、催眠効果はあまり強力ではありません。

以上から、良い睡眠をもたらすためには、トリプトファンを含む朝食をしっかり食べ、昼間は日光にあたり、就寝2時間ほど前までにお風呂と食事を済ませ、夜は遅くまでテレビなどの光に当たらず室内を薄暗くすると良いということが分かります。その他、夕食以降のカフェインの摂取は控える、長い昼寝は取らない、寝具や寝室の環境を整える等もあります。また、腸内環境と睡眠の関係も指摘されています。メラトニンを作るセロトニンの多くは腸内で作られますし、腸内環境が整うと自律神経や血流も良くなることが分かってきました。ただ、中には睡眠時無呼吸症候群の人、むずむず脚症候群やうつ病や他の病気が隠されている場合もありますので、これらの注意も必要です。

メラトニンについて  睡眠・覚醒、体温、血圧、免疫、ホルモンなど生理機能は日内変動をしていることが知られていますが、この主な担い手がメラトニンです。メラトニンには、その他、活性酸素を消去し細胞のダメージを防ぐ作用、ストレス時の免疫の調節を保つ作用、脳の老化に対抗する作用、破骨細胞を抑制する作用なども認められています。メラトニンは高齢になると分泌が減少する(70才を超えるとピーク時の10分の1以下になる)ため、高齢者の不眠にもつながっていると考えられています。海外ではサプリメントとして用いられていますが、日本では薬事法によりホルモンは医薬品となります。メラトニンによる睡眠は、多くの眠剤と異なり、睡眠時の脳波も自然の眠りに近く、今まで大きな副作用は報告されていません。ただ、研究の歴史の浅いことから今後副作用がでないとも限りませんので注意も必要です。